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京都地方裁判所 昭和50年(ワ)635号 判決

原告 小川良雄

右訴訟代理人弁護士 森川清一

被告 高山正一こと 崔永五

右訴訟代理人弁護士 中坊公平

同 谷澤忠彦

同 正木丈雄

同 井上啓

主文

一  当裁判所が

昭和四九年(手ワ)第一五六号事件につき昭和四九年七月三一日、

昭和四九年(手ワ)第二六九号事件につき昭和四九年一〇月二九日、

昭和四九年(手ワ)第三二八号事件につき昭和四九年一二月三日、

昭和四九年(手ワ)第三七一号事件につき昭和五〇年二月一三日、

昭和四九年(手ワ)第三七五号事件につき昭和五〇年三月一七日、

昭和四九年(手ワ)第四〇三号事件につき昭和五〇年五月六日、

昭和四九年(手ワ)第三九〇号事件につき昭和五〇年五月三〇日、

に言渡した各手形判決はこれを取消す。

二  原告の各請求を棄却する。

三  訴訟費用は異議申立の前後を通じて原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金二億三、三五〇万円および

内金三、三五〇万円に対する昭和四九年六月二〇日より、

内金五、〇〇〇万円に対する同年九月二〇日より、

内金二、〇〇〇万円に対する同年一〇月二三日より、

内金一、九〇〇万円に対する同年一一月一六日より、

内金三、五〇〇万円に対する同年一一月三〇日より、

内金四、四〇〇万円に対する同年一二月一一日より、

内金三、二〇〇万円に対する同年一一月三〇日より、

いずれも完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は別紙約束手形目録記載の約束手形三二通(以下本件手形という。)を所持している。

2  被告は本件手形を振出した。

3  よって被告に対し右各手形金およびいずれも訴状送達後である、昭和四九年(手ワ)第一五六号事件の各手形については昭和四九年六月二〇日より、同年(手ワ)第二六九号事件の各手形については同年九月二〇日より、同年(手ワ)第三二八号事件の各手形については同年一〇月二三日より、同年(手ワ)第三七一号事件の各手形については同年一一月一六日より、同年(手ワ)第三七五号事件の各手形については同年一一月三〇日より、同年(手ワ)第三九〇号事件の各手形については同年一一月三〇日より、同年(手ワ)第四〇三号事件の各手形については同年一二月一一日より、いずれも完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  答弁

請求原因1、2項は認める。

三  抗弁

1(一)  被告は、昭和四〇年一二月二六日以降、訴外杉本治郎から、別紙計算書(一)(二)(以下単に計算書という。)中、番号(イ)ないし(テ)の各借入額欄記載の各金員(合計金二億三、二五〇万円)を、計算書借入日欄記載の各期日に借受けた。

(二) 被告は右金員の借入にあたり、訴外杉本に対し、弁済期を支払期日とする被告振出にかかる約束手形をその証として交付していたものであるが、右約束手形の支払期日に訴外杉本との間において約定にかかる利息金(利息制限法違反の一か月三分の約定であった。)を支払い、手形を書替え、これを繰返し借入を継続してきたものであり、最終的に書換えられた手形が本件各手形である。

そして本件各手形と右借入金との関係は別紙説明書のとおりである。

(三) 被告は更に、本件手形金に対し

(1) 昭和四八年三月二二日 金一、〇〇〇万円

(2) 同年八月二二日 金七、〇〇〇万円

(3) 同年同月二三日 金一、〇〇〇万円

(4) 昭和四九年七月五日 金六、〇〇〇万円

を支払った。

そこで右支払利息のうち、利息制限法所定の利息を超過する部分を順次元本に充当し、かつ右(1)ないし(4)の支払金を、各借入金に法定充当すると、前記計算書記載のとおり、各借入金は元利とも完済され、反って金二、九一一万三、五四一円の過払となっている。

(四) 訴外杉本は自己が被告に対し本件各手形金の請求をすると、右弁済の抗弁を受けるので、原告に対し訴訟信託の趣旨で本件各手形を裏書譲渡したものである。したがって右譲渡は信託法第一一条により無効であり、原告は正当なる権利者ではない。

《以下事実省略》

理由

一  原告が本件各手形を所持していること、被告が本件各手形を振出したことは当事者間に争がない。

二  《証拠省略》によると、被告の代理人訴外金在洪は、昭和四〇年一二月二六日以降、訴外杉本治郎から、計算書、番号(イ)ないし(テ)の各借入額欄記載の各金員を、借入日欄記載の各期日に借受けたこと、これら借入金に対し一か月三分の利息を支払う約定であったこと、訴外金は右金員の借入にあたり、訴外杉本に対し、借入額を額面とし、被告を振出人、訴外杉本を受取人とする約束手形を支払手段として振出、交付していたこと、これら約束手形はその支払期日に約定利息を支払って書替えて来たこと、最終的に書替えられた手形が本件各手形であること、借入金と本件各手形との関係は別紙説明書記載のとおりであること、被告は各借入金に対し、計算書の借入額欄の次の期間欄記載の期日まで、約定利息として次々項の返済額欄記載の金員を支払って来たことが認められる。《証拠判断省略》

三  《証拠省略》によると、被告の代理人金在洪は本件借受金に対し、

(1)  昭和四八年三月二二日 金一、〇〇〇万円

(2)  同年八月二二日 金七、〇〇〇万円

(3)  同年同月二三日 金一、〇〇〇万円

を支払ったことが認められる。《証拠判断省略》

四  被告はそのほかに昭和四九年七月五日、金六、〇〇〇万円を本件借受金に対し支払った、と主張するが、《証拠省略》は証人杉本治郎の証言によると、訴外杉本の被告に対する別口の貸金に関する約束手形であることが認められるから、右主張の証拠とならず、また《証拠省略》中右主張にそう部分は措信できない。そして他に右主張を認め得る証拠はない。

五  次に被告の訴訟信託の抗弁につき考えるに、《証拠省略》によると、前記のとおり、被告の代理人金在洪が、昭和四八年八月二二日に金七、〇〇〇万円、同月二三日に金一、〇〇〇万円を支払ったとき、月三分もの高利を親戚である訴外杉本に支払っていることを被告が知り、ひどく激昂し、以後利息金の支払が途絶え、両者間に紛争が生じ、仲介人が入って示談解決を図ったが成功しなかったこと、そこで訴外杉本は訴訟により本件各手形金を取立てようと決意したが、自己が原告となると、被告より正に被告が本訴抗弁で主張しているような支払利息のうち利息制限法所定利率超過部分の元本充当、その他の弁済の抗弁を提出されるであろうことを予想し、右抗弁を切断する目的で、自己に代って原告に本訴提起をなさしむるべく、本訴提起の直前頃にかねてからの知合である原告、訴外大高産業株式会社代表取締役井上元成と相図り、本件各手形につき先ず自己から訴外大高産業株式会社に裏書し、同訴外会社より原告に裏書させて原告に交付したものであること、がそれぞれ認められる。《証拠判断省略》

そうすると、原告に対する右裏書は隠れた取立委任裏書であり、本件各手形債権の訴訟による取立のために、手形上の権利を信託的に原告に譲渡したものというべきであり、信託法第一一条により無効である、というべきである。したがって原告は右裏書により本件各手形上の権利を取得しなかったことは明らかであるから、原告の本訴請求は爾余の争点につき判断するまでもなく、理由がなく、これを棄却すべきである。しかるにこれを認容した本件各手形判決は失当であるからこれを取消し、本件各請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野田栄一)

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